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財産の評価ルール全般について(1)
- 2017年06月16日
- そもそも信託受益権が複層化された場合,画一的に財産評価基本通達202項を適用してよいものかは考慮の価値があると思われる。
相続税法上の課税実務においては財産評価基本通達に従って財産評価を行うことが通例である。これは相続税法22条において財産の評価は「時価」としているが,その時価については専ら解釈に委ねられてしまい,そのままでは恣意性が介入してしまうからである。
財産の時価を客観的に評価することは容易ではない。また納税者間で財産の評価がまちまちになることも公平主義に反する。そこで現実の評価実務においては財産評価基本通達(平成3年12月18日課評2-4,課資1-6)が国税庁より発遣されており,納税者間の公平の維持,納税者及び租税行政双方の便宜,徴税費等の削減等の観点から各種財産につき画一的に定められている。当然,通達は法律ではないため,また個別の財産はその価額に影響を与える全ての事情を考慮して決定されるべきものであるから,通達と異なる基準で評価されたとしても直ちに違法にならない。
もちろん通達の適用によって絶対的真実である時価を算定できるのか,という問題は別途生じるものと考えられる。実勢時価こそが相続税法22条にいう時価であるという考え方もあろうし,評価通達による時価を許容する通達準用という考え方もあろうし,この二つの考え方は拮抗しているといえよう。これについては必ずしもどちらが正しいという考え方はないものと思慮する。というのも,客観的交換価値である時価が必ずしも一義的に確定されないことから,これを個別に評価すると評価方法等により異なる評価額が算定されてしまうことになる。これを回避するために仕方なく,課税実務上は評価通達に定められた評価方法による画一的な財産評価が行われているという実情が実務的にも学説的にも一般的な理解としてあるのではないかと思慮する。
財産評価基本通達が唯一絶対の客観的交換価値に近づけることは現実的には不可能な問題であることを前提とすると,次の問題は評価通達に従う場面と従わない場面との差異をどのように縮めるかが問題となる。これは税務署長の裁量の問題そのものである。原則として通達に従った評価がなされるべきとした場合には,時価の評価を実質的に税務署長に一任してしまう結果となると思慮する。
この財産評価基本通達について,金子宏教授は「評価基本通達の基本的内容は,長期間にわたる継続的・一時的適用とそれに対する国民一般の法的確信の結果として,現在では行政先例法になっていると解される」と指摘されている 。