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財産の評価ルール全般について(3)
- 2017年06月18日
- 澁谷雅弘教授は,この点について下記のような指摘をされている。やや長くなるが引用する。
「財産については合理的な評価方法は複数存在するものと考えられる。過去の裁判例では評価通達が定める評価方法の合理性はかなり緩やかに認められているとも考えられる。裁判では,課税庁と納税者がそれぞれ合理的と思われる評価方法を主張して対立する。その際,基準となる財産の評価方法は,法律,行政立法,通達等に定められていることがある。
これら全てをここでは評価ルールと定義する。評価ルールについては法令に定められている場合には拘束力を有する。また,通達等であっても一定の場合には拘束力が有する場合があると考えられる。ここで拘束力とはその評価方法が他の評価方法より優れているという以外の理由で,裁判においても採用されることをいう。従って,ある評価方法について拘束力が認められないとしても,その評価方法が合理的であるという理由で採用されることはありうるのである。
評価ルールの種類として第一に,法律に時価としてのみ定められており具体的な算定ルールがない場合が考えられる。この場合,両当事者がそれぞれの評価方法を主張し,より優れているものが採用される。この優位性の判定であるが,ここでいうより優れているものとはより「経済的実体」に即したものと考えられる。裁判所では事実認定の問題として処理される。
第二に評価ルールが法律で明文化されている場合についてである。この場合,法律の文言の文理解釈が問題となるが,実勢価格とかけ離れている場合や行為計算否認の関係など,具体的には上記「法律に時価としてのみ定められており具体的な算定ルールがない場合」と同様の事実認定で処理されるだろう。
第三に評価ルールを行政立法に委任している場合が考えられる。行政立法への白紙委任は課税要件法定主義に反するものであり,法律に「時価」といったような何かしらの基準を設けることが必要であるものと思慮する。上記「法律に時価としてのみ定められており具体的な算定ルールがない場合」と比較して租税行政庁が定めたルールが優先適用されると思慮する。また,課税庁はある財産の時価がその評価ルールによる評価額を下回る旨を主張することはできないと解される。
第四に評価ルールを通達等に委任した場合についてである。この場合,事実認定と条文解釈が交錯した場合となる。平等取扱原則などの一般条項を経由しない限り拘束力は認められないものと解する。例えば,東京地判平成4年3月11日判時1416号73頁や東京高判平成27年12月17日判時2282号22頁に見られる。
法令により評価ルールを定める場合には,明文規定又は解釈により附随的条項の取扱いを明確にしておく必要がある。これは評価に影響してくるはずである。相続税においてはかための評価額がされることを勘案すると,ある財産の評価に関して,対応する財産の相続税評価額を当然の前提とするのは大きな検討の余地がある 。」
この分類に従えば,信託受益権の評価につき財産評価基本通達202項を適用することは評価ルールを通達等に委任した場合に該当するものと思われる。この場合,平等取扱原則などの一般条項を経由しない限り,裁判における拘束力は認められないことになる。そこで,拘束力の強い部分が現出される場面,つまり,その評価方法が他の評価方法より優れているという以外の理由で,裁判においても採用される場合においては,裁判において納税者側の主張が認められたもののうち,実質的な租税負担の公平を著しく害することがなく,画一的に適用した方が経済的実体に適う場合に限定される場面と解する。逆に,これを形式的に扱うことが,かえって納税者間の公平を保つことを阻害するのであればそれは個別具体的な事実認定の問題に帰結することになる。
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